病院の症例

高濃度ビタミンC点滴療法

当院では高濃度ビタミンc点滴療法を実施しています。本治療は、高濃度のビタミンCを静脈内へ投与することによって、殺腫瘍細胞効果を狙うもので、専用のビタミンC製剤の投与が必要不可欠となります。
人医療でのビタミンC療法の基幹組織となっているMR21点滴療法研究会が提唱するプロトコールを元に、動物用へと応用されている高濃度ビタンC点滴療法の適応は以下となります。

①抗がん剤の代替治療としを希望する場合
②標準的ガン治療の効果をより確実にする
③標準的ガン治療の副作用を少なくする
④良好な体調を維持しながら寛解期を延長させる
⑤標準的ガン治療が無効の場合

抗がん剤と比較して、副作用の非常に少ない治療法ではあるものの、いくつかの副作用の報告もあります。
当院では、既に多くの症例において本治療を実施しており、良好な結果が得られておりますが、この治療法が有効なガンの種類についてはまだ研究段階です。
本治療にご興味のある方がおられましたら、直接ご来院の上ご相談ください。

遺伝子検査

当院では、動物専門の遺伝子検査機関に登録し、遺伝子検査を実施しています。遺伝子検査は主に、腫瘍疾患に対して実施され、これまでは画一化されていた腫瘍の診断を細分化し、よりよい治療計画を立てることを目的に行われている検査です。現在のところ下記の疾患に対して主に遺伝子検査が行われています。

主に検査可能な遺伝子検査
○犬のリンパ腫に対するリンパ球クロナリティー検査
○猫のリンパ腫に対するリンパ球クロナリティー検査
○犬の肥満細胞腫に対するc‐KIT変異
○犬のGIST(消化管腫瘍)に対するc‐KIT変異
○MDR1遺伝子変異検査

なお、遺伝子検査の必要性は、治療の方向性や動物の状況によって異なるため、検査をご希望の際には予めご相談をさせていただいております。
また、遺伝子検査のみでは腫瘍の確定診断はできません。確定診断には、病理組織検査と組み合わせた総合的判断が必要となります。

肥満細胞腫(MCT)

中年齢以降になると、皮膚にはさまざまなデキモノができるようになります。皮膚にできるデキモノには、皮膚の変化によってできる非腫瘍性のイボ、良性腫瘍、悪性腫瘍などの分類があります。皮膚のデキモノには良性の病変が多いものの、中には悪性のデキモノもあるので注意が必要です。その中でも特に注意が必要なので、皮膚にできる悪性腫瘍のひとつである肥満細胞腫です。この腫瘍には『大いなる詐欺師』という異名があり、その名の通りに、いろいろな形、大きさ、硬さ、色のパターンがあり、また、大きくなったり小さくなったりと大きさが急に変化をしたりもします。皮膚にできるデキモノの見た目だけで良悪が判断できない大きな理由のひとつにこの腫瘍の存在があります。

肥満細胞腫の症状
発見時の初期には、ほとんどの場合で無症状です。発見後からすぐに悪化するものから、数年間に渡って変化を示さないものまであります。進行してくると、デキモノ自体の強い炎症反応や転移部位によって様々な臨床症状を示します。主な転移部位は、初期であっても、肥満細胞腫として疑える特徴が下記として挙げられます。

○大きさが日によって変わる
○触っていると、周囲が赤くなったり腫れたりする
○デキモノの周囲に強い皮膚炎が生じる

転移は、主にリンパ行性であり、所属リンパ節に入った後に、肝臓や脾臓に転移することが多いとされます。更に進行すると、骨髄が犯され、生命の維持が難しい状態に陥ります。また、肥満細胞腫の場合、腫瘍細胞自身が分泌する物質(ヒスタミンやヘパリンなど)によっても様々な合併症(腫瘍随伴症状)が生じます。特にヒスタミンによる胃十二指腸潰瘍はしばしば発生し、管理の難しい嘔吐や下痢、食欲不振を起こすことで、QOL(生活の質)を大きく下げてしまいます。

肥満細胞腫の診断
皮膚でできたデキモノに対して注射針を刺入し細胞を採取します。採取した細胞を顕微鏡で観察することによって診断が可能な場合がほとんどです。中には手術による切除後の病理検査によって確定診断されるものもあります。
本疾患が疑われた場合、レントゲン検査や超音波検査、リンパ節の検査等を行って腫瘍の転移の状況を確認する必要があります。

肥満細胞腫の写真
下記の写真2枚はいずれも肥満細胞腫を示したものです。肉眼の特徴で腫瘍の種類を判断できない典型的な例となります。

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肥満細胞腫の治療
外科療法
肥満細胞腫の治療の主軸となります。切除後の病理検査により腫瘍の悪性度や腫瘍細胞の広がりを調べます。悪性度や広がりを調べることによって、外科療法のみで治療を終了できるか、外科療法単独での治療が不十分かの判断をします。
放射線療法
外科療法単独での治療が不十分であった場合に選択できる治療方法です。道内では、酪農学園大学、北海道大学にて実施可能です。治療には、複数回の全身麻酔が必要なのと、放射線療法そのものの副作用もあることから、選択する際にはしっかりとした相談が必要となります。
内科療法
放射線療法が適応とならない、または選択しない場合には、抗がん剤や分子標的療法の選択が可能です。近年では、国内での販売が開始されたことからも分子標的療法の注目が高まってきています。
その他
副作用の少ないインターフェロン療法や、腫瘍随伴症状を抑えるためのステロイド治療等もあります。しかしながら腫瘍そのものへの治療効果は確立されておらず、腫瘍によって悪化する全身状態を少しでも良くする目的で使用されます。

肥満細胞腫の予後
腫瘍細胞の悪性度や広がりの状況によって大きく異なります。初期で完全に取りきれた場合は、比較的良好な予後を示しますが、完全にとり切れない場所(顔面や四肢などの手術が難しい部位)に生じてしまった場合には、再発や転移の可能性が高まります。

普段からスキンシップの一環で、体をよく触ってあげて年齢と共に増えてくる体のデキモノを早期に発見してあげる事が一番大切と思います。デキモノを発見したらあまり悩まずにまずは動物病院で相談することをお勧めいたします。

子宮蓄膿症

中~高齢の雌犬や雌猫で、元気や食欲が低下し、吐いたり、急に水をよく飲むようになった場合、子宮蓄膿症を疑う必要があります。子宮蓄膿症とは、子宮に入り込んだ細菌による感染症によって、子宮内に膿が貯留する疾患です。膿が貯留しはじめる段階では、なんとなく元気や食欲がない程度の症状しか現れないのですが、病気の進行に伴って、多飲多尿や嘔吐などの症状が現れるようになります。やがて子宮が膿によって限界まで膨らむと、陰部からの排膿が起こることによって初めて気付かれることが多い疾患です。

子宮蓄膿症の原因
はっきりとした原因は不明とされます。ただ、発情期に子宮内に入り込んだ細菌の感染が発症の引き金となります。

子宮蓄膿症の症状
・元気食欲の消失
・水をよく飲む、尿の量が増える
・発熱
・嘔吐
・陰部からの俳膿、腹部膨満

子宮蓄膿症の診断
臨床症状によって疑います。レントゲン検査、エコー検査などによって診断されます。

診断の実際
↑の付近でモコモコとした塊に見えるのが拡張した子宮を示唆しています。
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子宮蓄膿症の治療

外科手術
治療の第一選択となります。ただし、子宮蓄膿症が高齢動物での発症が多いこと、また、子宮蓄膿症の進行によって体力が落ちてしまっていること等の理由によって、他の外科手術と比較して死亡リスクの高い手術の一つと考えられます。

内科療法
高齢または他の重篤な疾患によって麻酔がかけられない場合に、子宮蓄膿症の内科療法として適応となるAlizin(アリジン)という内服薬があります。ただし、国内では入手が出来ないこと、内服薬で改善しても再発をすることがあること等より、適応には慎重な判断が必要となります。詳しくはご来院の上ご相談下さい。

外科手術の実際(写真は白黒に処理してあります)
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同じくらいの体格の犬の子宮の写真です。左側が通常の大きさの子宮に対して
右側がパンパンに膨らんでいることがわかります。(縮尺は変えています)

子宮蓄膿症の治療は、蓄膿により限界まで膨らんだ子宮が破れてしまうことを予防する外科治療と、蓄膿症(感染症)によって、体内に侵入してきた細菌に対する内科治療と、細菌の毒素による二次的致死的反応に対する内科治療との組み合わせによる治療が必要となります。子宮蓄膿症を発症する年齢が比較的高齢であることからも、術前術後の死亡率が高い手術となるため、避妊手術による予防がとても有効かつ大切な疾患の一つといえます。しかしながら近年、避妊手術のデメリットもいくつかいわれるようになってきている事もあり、メリット・デメリットを考えてからの適切な判断が求められると思います。

 

 

 

食道狭窄

食べてすぐに吐き戻したり、食後に過剰なよだれや嚥下困難といった症状が慢性的に続いている場合、食道狭窄を原因の一つとして疑う必要があります。食道狭窄とは、様々な原因で食道内が一箇所または複数ヶ所で狭くなってしまう疾患で、狭窄部位において食べたものが通りにくくなってしまう病態をいいます。重症化すると、固形の物だけでなく液体も通りにくくなり、摂食困難な状態に陥ってしまいます。また、2次的に致死的な誤嚥性肺炎を引き起こすことも知られるため注意の必要な疾患の一つです。

食道狭窄の原因
食道炎
難治性の吐出、嘔吐や異物の誤飲によって、重度の食道炎が生じた時に、その治癒過程で過剰な瘢痕収縮が発生した場合に狭窄が生じると考えられています。
食道内腫瘤
食道内腫瘤そのものによる食道の圧迫によって狭窄が生じます。腫瘤には、良性または悪性の腫瘍等が含まれます。
血管輪の異常
胎児期の発生過程において、食道と血管の位置関係に異常が生じ、食道の周りを血管で 絞めてしまう奇形の一つです。

食道狭窄の診断
バリウム造影検査
食道狭窄が疑われた場合に第一に行う検査です。
内視鏡検査
バリウム検査にて狭窄が疑われた場合、狭窄部位の状況を確認するために行う検査です。狭窄している位置、数や形状を知ることで、治療方針を計画していきます。検査には全身麻酔が必要となります。

診断の実際
レントゲン造影検査による食道狭窄を示唆する所見です。赤い矢印は、食道が狭くなっている部分です。黄色の矢印は食道が狭窄しているため造影剤が正常に流れず、食道内に貯留している所見です。
    食道狭窄 矢印 レントゲン

上記の検査で異常が認められた部位を内視鏡で確認したものです。中心に認められる小さい黒い穴が、狭窄を起こしてしまった食道を示しています。狭窄部位の直径は、わずか3.9mmまで狭くなってしまっています。
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食道狭窄の治療
内科的治療
狭窄の程度や症状が軽い場合、まず内科療法を試みます。軽度の場合、薬剤による管理で症状が安定することもありますが、多くの場合で進行性に狭窄が悪化してしまいます。
外科的治療
内科的に治療が困難な場合、内視鏡を使って食道内を広げるバルーンカテーテル拡張術を実施します。特殊な管を狭窄部位で膨らませることによって狭窄した食道を徐々に広げていきます。全身麻酔が必要となりますが、処置時間は5~10分ほどで終わり、入院の必要もありません。1回の処置で狭くなった食道を完全に広げることはできないので、数回に分けて実施します。

治療の実際
写真は、内視鏡下バルーンカテーテル拡張術を示します。青い管(カテーテル)に付属する透明のふくろ(バルーン)を液体で膨らませることによって狭窄部位を拡張させます。内視鏡で確認しながらカテーテルを狭窄部位に配置させます。拡張術は数日に分けて複数回行うことが必要となります。
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バルーンカテーテル拡張術後の食道内腔の所見です。食道の狭窄部位は裂けるように拡張するため、何度かに分けて少しづつ実施することが重要となります。
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食べた直後の吐出や、過剰なよだれ等の症状が慢性的に続いた場合には、食道も含めた詳細な検査を計画することが大切です。食道狭窄の診断には、全身麻酔下での内視鏡検査も必要となりますが、内視鏡検査は短時間で診断的所見が得られることから有用な検査と考えられています。食道狭窄は、その原因や、重症化によって命に関わる病態へと発展するため、早期発見、早期治療が重要な疾患の一つです。気になる症状があった場合には、一度、動物病院で相談をしてみることを推奨します。