モーズペーストについて

高齢の犬や猫では体の表面に様々な大きさのしこりが複数発生することが多く、中にはしこりの表面が破れたり潰瘍化することで出血や臭いが生じてしまうこともあります。

このようなしこりは、細胞診などの検査結果に基づき手術にて切除することが基本ではありますが、様々な理由により全身麻酔が困難な場合も多くあります。また、全身麻酔ではなく局所麻酔にて切除することもありますが、しこりの大きさや発生した部位によっては処置が難しいこともあります。このような場合には毎日の消毒やテーピングで患部を覆うなどの処置が必要となり、動物たちや飼い主さんの日々の負担も大きいものとなってしまいます。

当院ではこのように切除が困難なしこりに対する治療法のひとつとして、麻酔を必要とせず侵襲の少ない方法でしこりの縮小や消失が期待できるモーズペースト法を取り入れています。

モーズペーストとは人の医療において体表の腫瘍に対して軟膏を塗布する緩和治療のひとつで、近年獣医療においてもその報告が増えてきています。

モーズペーストに含まれる塩化亜鉛はタンパク質の変性や殺菌作用を有し、体表腫瘍からの出血や浸出液、悪臭などの抑制、腫瘍の縮小などの効果が期待できます。特に表面が潰瘍化してじゅくじゅくしているような腫瘍などで適応となりますが、腫瘍の種類や状態によって、効果は様々です。

 実際の処置では、患部の毛刈りや洗浄後、しこりの上にモーズペースト軟膏を塗布し、数十分~1時間後に洗い流します(しこりの大きさや深さ、薬の浸透具合により塗布時間を調整します)。その際、薬の浸透による局所的な痛みに対し痛み止めを併用したり、周りの正常な皮膚をワセリンや医療用テープにより保護し、薬の周囲への影響を最小限にとどめるよう注意しながら処置を進めていきます。

その後は7~10日ごとにご来院いただき、しこりの縮小具合などを確認しながら処置の回数を決めていきます。

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500円玉大の表面が潰瘍化したしこり
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モーズペースト塗布後

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1週間後 しこりが1cm以下に縮小し出血や浸出液が抑えられています

モーズペーストは獣医療においては、まだ報告は少なく比較的新しい治療法のひとつですが、手術が困難な犬や猫において全身麻酔を必要とせず生活の質を改善しうる有効な緩和治療のひとつであると考えられます。

表面がじゅくじゅくしているような体表のしこりについてお困りの方や、モーズペーストについて詳しく知りたい方など、どうぞお気軽にご相談ください。

獣医師:野上