トイプードルの前足の骨折

トイプードルに代表されるトイ種の前足の骨折は、通常の生活を送る中でも遭遇してしまう比較的多い骨折の1つです。ちょっと高いところから飛び降りてしまっただけで、または、子供と遊んでいて軽く踏まれてしまっただけなのに、ギャンと鳴いて片足をつけなくなってしまった場合には、骨折を疑う必要があります。とくに、痛がっている肢が、あきらかに通常では曲がらない位置で曲がっている場合は、極力患部を動かさないようにして、すぐに動物病院を受診しましょう。

動物の手首から肘までの部分を前腕部とよび、橈骨と尺骨という2本の骨で構成されています。トイ種の場合、この部位の骨がもともと非常に細かったり、嬉しくてジャンプなどを繰り返すことで骨の硬化現象がおこり、骨折が生じやすくなるという考え方などがあります。折れてしまう場合、2本同時に、骨の中央部から末端部にかけて骨折する事が多くみられます。

骨折の治療方法
一般的に、骨折の治療方法の選択枝には、外固定と内固定またはその両方の組み合わせがあります。
外固定:ギブス固定、トーマススプリント固定 など
内固定:プレート固定、髄内ピン など

これらの治療方法の選択は、骨折した動物の体格や年齢、骨折部位や骨折タイプによって、術前までに決定されます。とくに、トイ種の場合、骨折した骨が癒合しづらいという特徴を持っていることから、より積極的な治療方法の選択が望ましいとされています。しかしながら、動物の場合、術後の完全な安静が難しい場合が多く、骨折部位の癒合不全や術後の再骨折、内固定のズレなどに対する課題がまだまだあり、より良い治療方法への改良が、日々、獣医療界全体でも行われています。

手術の実際
プレート固定を用いた橈尺骨骨折の一例です。ベットから飛び降りた際にギャンと鳴いて前足をつけなくなってしまったトイプードルのコのレントゲン写真です。
前腕部の2本の骨(橈骨と尺骨)がそれぞれ折れてしまっています。
DSCF2198 op
上記の骨折タイプの場合、プレート固定による内固定が有効となります。術後の癒合不全や再骨折の確率を最小限に収めるためには、骨折した骨の形状にあったプレート(下の写真の黄矢印)とボルトの選択や、プレートを入れるのに最小限の切開に留めるということが、需要なポイントの1つといえます。
プレゼンテーション1プレート

トイ種の場合、二本ある骨の一本(尺骨)は非常に細く、プレートや髄内ピンの装着ができません。しかしながら、橈骨(太い方の骨)の手術をすることで、橈骨自体が副木の代わりとなり、尺骨は自然治癒できます。下の写真の黄矢印は、尺骨の骨折部位を示します。橈骨の手術が正確に行われれば、尺骨は、骨折部位を元の位置に戻してあげるだけで治癒します。
スライド1

6週間目のレントゲン写真です。まだ、あまり大きな変化は認められません。
DSCF1960 6週目

10週間目です。尺骨の折れた部分が盛り上がり(仮骨の形成)、骨折が治癒するための重要な現象が生じてます。
DSCF2090 10週目

12週間目です。仮骨の形成によって骨折の治癒が進んでいます。骨折が治癒すると仮骨はやがて縮小し、骨が元の形状に戻っていきます。プレートを装着した橈骨の骨折部位も殆どわからなくなっています。ここまできたら、あとはプレートを抜去する計画を立てていきます。
DSCF2195 3ヶ月目

トイ種の術後ケアでとても大切なこと
トイ種の骨折治療において、常に大きな課題として挙げられるのが骨折部の癒合不全です。癒合不全とは、手術した肢の荷重が開始されることによって、骨折部とプレート間で発生する、持続的で微細な力によって起こる現象で、骨の治癒が進まないだけに留まらず、骨の吸収や病的骨折にも発展してしまいます。癒合不全は、初期にレントゲン検査で発見することができれば安静の徹底や、再固定処置によって改善させることが可能なため、術後は頻回のレントゲン検査を受けることがとても重要となります。

また、特にトイプードルの場合、ジャンプする習慣を持つコが多く、普段から繰り返すジャンプの負荷が骨に蓄積することによって、骨折が生じやすくなるという考え方があることからも、ジャンプをしてしまう習慣を変えていくことも大切な事の一つと考えられます。

 

獣医療の専門化が進むに従い、専門とする分野内の疾患を一病院で網羅的に対応するために必要な機材が増えるなどの事情により、2023年現在、獣医療費の高騰が続いています。当院では、骨折治療をトイ種に限定することで、ご負担の軽減を目指しています。