食道狭窄

食べてすぐに吐き戻したり、食後に過剰なよだれや嚥下困難といった症状が慢性的に続いている場合、食道狭窄を原因の一つとして疑う必要があります。食道狭窄とは、様々な原因で食道内が一箇所または複数ヶ所で狭くなってしまう疾患で、狭窄部位において食べたものが通りにくくなってしまう病態をいいます。重症化すると、固形の物だけでなく液体も通りにくくなり、摂食困難な状態に陥ってしまいます。また、2次的に致死的な誤嚥性肺炎を引き起こすことも知られるため注意の必要な疾患の一つです。

食道狭窄の原因
食道炎
難治性の吐出、嘔吐や異物の誤飲によって、重度の食道炎が生じた時に、その治癒過程で過剰な瘢痕収縮が発生した場合に狭窄が生じると考えられています。
食道内腫瘤
食道内腫瘤そのものによる食道の圧迫によって狭窄が生じます。腫瘤には、良性または悪性の腫瘍等が含まれます。
血管輪の異常
胎児期の発生過程において、食道と血管の位置関係に異常が生じ、食道の周りを血管で 絞めてしまう奇形の一つです。

食道狭窄の診断
バリウム造影検査
食道狭窄が疑われた場合に第一に行う検査です。
内視鏡検査
バリウム検査にて狭窄が疑われた場合、狭窄部位の状況を確認するために行う検査です。狭窄している位置、数や形状を知ることで、治療方針を計画していきます。検査には全身麻酔が必要となります。

診断の実際
レントゲン造影検査による食道狭窄を示唆する所見です。赤い矢印は、食道が狭くなっている部分です。黄色の矢印は食道が狭窄しているため造影剤が正常に流れず、食道内に貯留している所見です。
    食道狭窄 矢印 レントゲン

上記の検査で異常が認められた部位を内視鏡で確認したものです。中心に認められる小さい黒い穴が、狭窄を起こしてしまった食道を示しています。狭窄部位の直径は、わずか3.9mmまで狭くなってしまっています。
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食道狭窄の治療
内科的治療
狭窄の程度や症状が軽い場合、まず内科療法を試みます。軽度の場合、薬剤による管理で症状が安定することもありますが、多くの場合で進行性に狭窄が悪化してしまいます。
外科的治療
内科的に治療が困難な場合、内視鏡を使って食道内を広げるバルーンカテーテル拡張術を実施します。特殊な管を狭窄部位で膨らませることによって狭窄した食道を徐々に広げていきます。全身麻酔が必要となりますが、処置時間は5~10分ほどで終わり、入院の必要もありません。1回の処置で狭くなった食道を完全に広げることはできないので、数回に分けて実施します。

治療の実際
写真は、内視鏡下バルーンカテーテル拡張術を示します。青い管(カテーテル)に付属する透明のふくろ(バルーン)を液体で膨らませることによって狭窄部位を拡張させます。内視鏡で確認しながらカテーテルを狭窄部位に配置させます。拡張術は数日に分けて複数回行うことが必要となります。
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バルーンカテーテル拡張術後の食道内腔の所見です。食道の狭窄部位は裂けるように拡張するため、何度かに分けて少しづつ実施することが重要となります。
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食べた直後の吐出や、過剰なよだれ等の症状が慢性的に続いた場合には、食道も含めた詳細な検査を計画することが大切です。食道狭窄の診断には、全身麻酔下での内視鏡検査も必要となりますが、内視鏡検査は短時間で診断的所見が得られることから有用な検査と考えられています。食道狭窄は、その原因や、重症化によって命に関わる病態へと発展するため、早期発見、早期治療が重要な疾患の一つです。気になる症状があった場合には、一度、動物病院で相談をしてみることを推奨します。