会陰(えいん)ヘルニア

排尿または排便姿勢をとったまま長い時間なかなか尿や便が出なかったり、出てが少ししか出ない症状が続いた場合、肛門の周囲(2時から10時方向)をよく触ってみてください。張っていたり、膨隆しているように感じた場合、会陰ヘルニアを疑う必要があります。会陰ヘルニアとは、中~高齢の未虚勢犬で発生しやすく、直腸や腹腔内臓器(膀胱、腸、前立腺など)が、肛門の脇の皮膚の下までせり出して来てしまう疾患で、コーギーやダックスなどで多く報告されています。直腸や腹腔内臓器が本来の位置からせり出す結果、便の正常な流れが阻害され、排尿排便障害へと発展してしまいます。

会陰ヘルニアの原因
男性ホルモンや断尾による肛門周囲の筋肉の萎縮が原因と示唆されています。便が正常に出るためには、腸内の便が骨盤の中を取って肛門までたどり着く必要があります。骨盤の中は、筋肉でできたトンネル様となっており、その中を腸が通り便を肛門まで運びます。本疾患では、このトンネルの筋肉量が極端に少なくなってしまう結果、筋肉間に隙間が生じ、その隙間から主に直腸、時に脂肪組織や前立腺が飛び出すことで発症します。症状が軽度の場合、排便障害はあるものの元気なため、病気が見過ごされがちとなりますが、重症例では、膀胱や小腸、子宮の脱出も報告されており、尿毒症や腸管壊死といった致死的な合併症を起こすことがあります。

会陰ヘルニアの診断
直腸検査による触診や、レントゲン検査、エコー検査を組み合わせて診断します。脱出している臓器の特定も重要です。
検査の実際(レントゲン検査)
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バリウムで染色された腸内の便を観察することで
直腸の正常な走行が破綻していることが確認されます。

会陰ヘルニアの治療の選択
会陰ヘルニアは、長年にわたり軽度の排尿排便障害のみで経過する場合もあれば、致死的な経過をとることもある疾患です。外科的整復術の実施が絶対的不可欠ではないものの、診断され次第できるだけ早期に手術を実施することが望ましい疾患と考えられています。しかしながら本疾患は高齢での発生が多く、常に麻酔リスクが問題となります。また、既に他疾患を有していたり、手術そのものの合併症、再発リスク等々の検討も必要なため、なかなか手術の選択を躊躇してしまう場面も多い疾患ともいえます。

内科療法(浣腸や手指による摘便)
会陰ヘルニアそのものの進行が遅い場合、長期間この方法で維持可能な場合もあります。しかしながら、病態の悪化や、指や浣腸による腸粘膜の物理的損傷部位からの感染が生じた場合、致死的な敗血症性またはエンドトキシンショックの報告も多数なされてます。
外科療法
たくさんの術式が報告されています。裏を返せば、それだけ合併症や再発が問題となりやすい疾患といえます。再発を確実に防ぐ術式は未だ 確率されていません。種々の手術方法にはそれぞれ利点と欠点があり、平均的に10~30%で再手術の必要性を考える必要があります。選択する術式によって、術後の合併症や再発に差があることや、手術費用も大きく変わるため、手術前によく相談することが大切です。

主な術式
○内閉鎖筋フラップを用いた整復法
○仙結節靭帯を用いた整復法
○総鞘膜を用いた整復法
○ポリプロピレンメッシュを用いた整復法
○半腱様筋フラップを用いた整復法
○結腸固定法

当院で通常実施する術式として、内閉鎖筋フラップ及び仙結節靭帯整復法の併用を採用しています。また、重度の場合、開腹が必要とはなるものの結腸固定法を併用することで再発リスクを軽減する方法を選択しています。

主な合併症
○術後の一過性の術部腫脹や直腸脱
○術後の持続的なしぶりなどの排便障害
○大腸菌による感染症、敗血症

再発時
半腱様筋フラップ法による追加手術が必要となります。

手術の実際
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皮膚に生じた膨隆部を切開すると、通常は筋肉組織しかない
部位で、脱出した臓器が観察されます。
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仙結節靭帯に縫合糸をかけていきます。再発率や合併症を
左右する重要な工程となります。
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内閉鎖筋フラップを作成するために、坐骨から筋肉を剥離します。
再発を減らすために最も重要な工程の日ひとつとなります。

    写真
最後に、剥離した筋肉と仙結節靭帯、肛門周囲の筋群を
集結するように縫合することで、筋肉の壁を作ることによって
腹腔内臓器の脱出を防ぎます。

最後に
本疾患の病態に関して、いまだ確固たる共通見解がなされていないものの、虚勢手術によって予防できる可能性が高いと考えられます。また、発症からの経過時間と術後の再発率も比例するとも考えられています。さらに、術後の肥満や過度な吠えなどによる腹圧の上昇による再発事例の報告もあることから、ダイエットや生活習慣の改善といった要素も、本疾患の治療には大切なことの一つといえます。