犬の慢性腸炎の症状
腸炎と聞くと下痢を思い浮かべる方が多いと思いますが、実は腸炎の臨床症状は様々です。無症状~消化器疾患全般と幅広く、単独の症状から複合の症状まで多種多様です。そのため、下痢を含めて、なかなか治らない臨床症状や、なんとなく調子が悪い事が続いた時には、慢性腸炎かもと疑ってみる事が大切です。
2026年に慢性腸炎の代表的な疾患である慢性炎症性腸症に関するアップデートがありましたので、本疾患を中心に考えられる原因や必要な検査をまとめさせていただきます。
慢性腸症でよくみられる症状
- 下痢
- 嘔吐
- 腹鳴
- 食欲不振
- 体重減少
- 疲れやすい
- 無症状
慢性腸炎の原因
原発性
- 慢性炎症性腸炎(最も多い)
- 寄生虫
- 腫瘍
- 異物による不完全腸閉塞
- 腸重積
- 腸リンパ管拡張症
続発性
- 膵外分泌不全(EPI)
- アジソン病
- 肝疾患
- 腎疾患
- 心疾患
いずれの疾患も、腸粘膜の慢性障害によって、栄養(蛋白)を喪失する蛋白喪失性腸症(PLE)を合併する可能性を秘めています。一度、PLEが合併すると、PLEに続発する他の疾患の併発を起こすなど、状況が複雑化します。
慢性腸炎の診断
基本的には除外診断となります。血液検査、糞便検査、レントゲン、エコー検査による基本検査を行って各種疾患の鑑別を行います。
鑑別疾患の中で最も発生率の高い慢性炎症性腸症(CIE)に関しては、以下の条件を満たした場合に診断されます。
- 適切な治療にかかわらず、消化器症状が3週間以上継続
- 慢性腸炎のその他の疾患が除外されている
- 必要な場合、内視鏡検査にて、腸管腫瘍(レントゲン、エコー検査では検出できない腫瘍があります)を除外
慢性炎症性腸症(CIE)について
以下に最新版(2026年)の慢性炎症性腸症のフローチャートを添付します。なかなか治らない下痢や嘔吐症状の際には、診断の仕切り直しが有効です。ぜひ参考にしてみてください。
フローチャートでは、食事療法がとても重要な位置に置かれています。報告により様々ですが、慢性炎症性腸症(CIE)のおよそ50~70%が食事療法に反応する事が論拠となっています。
また、重症サインに含まれるCCECAIスコアの結果によっても検査の流れが変わります。これまでは獣医師の主観的な判断に委ねられていた検査や治療の流れに、客観的な評価が含まれるようになってきているのは、近年の獣医療の流れの特徴とも言えます。

重症サイン
治療を行う上で、どの程度の速度感で検査や治療が必要なのか?緊急対応が必要なのか、対症療法の反応をみるべきなのか、侵襲的検査も辞さない状況なのかを判断する上では、重症度を正しく判断する事はとても重要です。上のチャートから抜粋してみます。
重症サイン
- 元気がない
- 食べられない
- 体重減少が大きい(明確な基準はないが目安として10%など)
- 低アルブミン血症
- CCECAIスコアで6点以上
CCECAIスコアとは
稟告や臨床検査から読み取る重症度です。方針を決める上でとても重要なスコアリングとなるため、現在、消化器症状が続いている場合には、セルフチェック表で合計点を出してみてください。ご自宅で点数をつける項目で既に6点近くになっている場合には、必ず獣医師にお伝えください。

まとめ
下痢が慢性的に続いている場合、その原因は様々にあります。また、各原因(原発疾患)を理由に、合併症の併発(続発疾患)もしばしば認められます。また、長期化する消化器症状の背景には、腸リンパ管拡張症や、消化管の腫瘍である消化器型リンパ腫などのより重大な疾患が隠れている場合もあります。
複雑に絡み合う原発疾患と続発疾患からなる臨床症状に対して、正確に病態を捉えて診断にたどり着くこととても難しい事ではあります。しかしながら、一定の手順に沿って、体系的に診察を進める事で、絡み合った複雑な病態を少しずつ解くことができます。
なかなか治らない慢性の下痢で、治療がうまくいかないときには、上のフローチャートが力になってくれると思います。是非、参考にしてみてください。
当院では米国獣医内科学専門医に指導を受けて、最新の獣医学のアップデートに努めています。
新しい見解を学べた際には、またご紹介させていただきます。
