目次
まず知っておいていただきたいこと
「膝のお皿が少しゆるいようですね」
「将来、パテラになるかもしれません」
健診や診察でこのように伝えられると、
「今痛みはなさそうだけど、このままで大丈夫なの?」
「将来、手術が必要になるの?」
と、不安に感じられる飼い主様も少なくありません。
まず知っておいていただきたいのは、パテラ(膝蓋骨脱臼)が見つかったからといって、すぐに手術をしなければならないわけではないということです。
一方で、症状がないからといって、膝の状態を詳しく確認しなくてもよいというわけでもありません。
パテラが見つかったことは、
「今の膝がどのような状態なのかを知り、これからどう付き合っていくかを考えるきっかけ」
と考えていただくとよいでしょう。
「手術が必要かどうかを決めるため」ではなく、まずは膝のことで悩んでいる、不安なご家族の方にとって愛犬の膝について知る、考える一助となればと思い、記事にまとめました。
パテラ(膝蓋骨脱臼)は、犬に多く認められる進行性の膝の疾患です
パテラとは、膝のお皿である膝蓋骨が、本来収まっている大腿骨の溝(滑車溝)から内側または外側に外れてしまう状態です。
小型犬では内側に外れる「膝蓋骨内方脱臼」が、大型犬では外側に外れる「膝蓋骨外方脱臼」が多く認められます。
パテラがあっても、普段は痛がる様子がなく、普通に生活しているワンコも少なくありません。
しかし、膝蓋骨が繰り返し脱臼することで、膝本来の正常な動きが妨げられたり、膝の関節に負担がかかったりすることがあります。長い経過の中では、関節炎などの変化が進行することもあります。
そのため、「今、症状がないから大丈夫」と決めつけるのではなく、現在の膝がどのような状態なのかを知っておくことが大切です。
→膝蓋骨脱臼(パテラ)についてもっと詳しく知りたい方はこちら
まずは「今の膝がどのような状態なのか」を確認
膝蓋骨脱臼は、脱臼の程度によって4つのグレードに分類されます。
グレード1
膝蓋骨は指で押すと脱臼しますが、指を離すと正常な位置に戻ります。
日常生活で運動したり、走ったりした際の脱臼はほとんどないとされる状態です。
グレード2
膝蓋骨は膝を曲げたり、指で押したりすると脱臼しますが、膝を伸ばしたり、指で押したりすることで正常な位置に戻ります。
膝蓋骨が自発的に脱臼する頻度がグレード1より増えている状態です。
グレード3
膝蓋骨は常に脱臼していますが、指で押すと正常な位置に戻すことができます。ただし、指を離すと再び脱臼します。
グレード2よりもより重度な骨の変形が認められるようになり、進行している場合には明らかな脛骨の内側へのねじれや大腿骨の湾曲が特徴的です。
グレード4
膝蓋骨は常に脱臼しており、指で押しても正常な位置に戻すことができません。
膝関節をうまく伸ばすことができず、うずくまるような歩き方が見られます。
重度な場合では骨だけでなく靭帯にも重度の変形が起き、より複雑な術式の手術を必要とする可能性があります。
ただし、グレードだけで治療方針が決まるわけではありません。
実際の診療では、まず問診や触診によって、
- いつ頃から症状があるのか
- どのような歩き方をしているのか
- 膝蓋骨がどの方向に脱臼しているのか
- どの程度の頻度で脱臼しているのか
- 痛みがあるのか
などを確認します。
さらに必要に応じてX線検査などを行い、膝蓋骨だけではなく、大腿骨や脛骨などの骨格、膝周囲の状態、膝蓋骨が脱臼する原因となっている構造上の問題についても評価します。
場合によっては、関節エコーなどを用いて、関節内や周囲の組織の状態を確認することもあります。
つまり、
「グレード○だから手術」ではなく、「この子の膝が実際にどのような状態なのか」を確認することが、治療を考える第一歩です。
パテラが見つかったら、すぐに手術を決める必要はありません
膝蓋骨脱臼には、すべての犬に当てはまる一律の「このグレードなら手術」という明確な基準があるわけではありません。
そのため、同じグレードであっても、
- 痛みがあるか
- 歩き方に変化があるか
- 脱臼を繰り返しているか
- 年齢はどのくらいか
- どのような生活をしているか
- 運動量や活動性はどのくらいか
- 今後どのような生活をさせてあげたいか
などによって、治療についての考え方は変わってきます。
症状が軽い場合や、年齢・基礎疾患などから手術を選択しない場合には、生活環境への配慮や疼痛管理などを行いながら、状態を見ていく方法もあります。
一方で、痛みや跛行が続いている場合、脱臼を繰り返している場合などには、将来的な膝への負担も考えたうえで、手術を含めた治療を検討することがあります。
大切なのは、最初から「手術をする・しない」を決めることではありません。
今の状態を把握し、どのような選択肢があるのかを知ったうえで、その子に合った方法を一緒に考えていくことです。
→パテラの治療について、手術の適応や考え方をさらに詳しく知りたい方はこちら
治療は、愛犬の膝の状態とご家族の考え方を踏まえて一緒に考えます
もし治療が必要と考えられる場合には、
- 現在の膝の状態
- 痛みや歩き方への影響
- 今後予想される変化
- 手術を行う場合の方法
- それぞれの治療で期待できること
- 治療に伴うリスクや注意点
- 手術をせず経過を見る場合に考えられること
などを一つずつご説明します。
膝蓋骨脱臼の手術では、単純に「膝のお皿を元の位置に戻す」だけではなく、膝関節を伸ばす仕組み全体のバランスを評価し、その子の膝の状態に合わせて複数の術式を組み合わせることがあります。
例えば、膝蓋骨が収まる滑車溝を整える「滑車溝造溝術」、関節包や支帯のバランスを整える処置、脛骨粗面転移術、大腿骨の変形を矯正するDFO(大腿骨遠位骨切り術)などがあります。
そのため、同じ「パテラ」という診断でも、必要となる治療内容はその子によって異なります。
そして、治療を考えるうえでは、膝の状態だけでなく、愛犬がどのような生活をしているのか、どのくらい運動するのか、どのような性格なのか、飼い主様がどのようなことを大切にされているのかも重要です。
「できるだけ手術は避けたい」
「これからも元気に走らせてあげたい」
「今は困っていないけれど、将来のことが心配」
「他の病院で手術を勧められたけれど、もう一度話を聞きたい」
どのようなご相談でも構いません。
治療を決めるためだけではなく、愛犬の膝について一緒に整理するための受診でも大丈夫です。
分からないことや迷っていることがあれば、何度でもご相談ください。
→実際にどのような診察や検査を行い、どのように治療方針を決めていくのかを詳しく知りたい方はこちら
「今は大丈夫」と思っている時こそ、膝を知る機会に
パテラは、成長期から成犬・高齢期まで、さまざまな時期に見つかることがあります。
また、今は症状がなくても、年齢や膝の状態の変化に伴って、歩き方が変わったり、膝への負担が増えたりすることがあります。
札幌「犬の膝疾患」専門サイトでも、膝蓋骨脱臼では年齢、脱臼の重症度、症状が続いている期間などと関節軟骨の損傷との関連が報告されていることを紹介しています。
だからこそ、
「今は何も困っていないから、そのままでいいのかな」
と悩んでいる段階でも、一度現在の状態を確認しておくことには意味があります。
受診したからといって、すぐに治療を決める必要はありません。
まずは「うちの子の膝は、今どんな状態なんだろう?」と知るところから始めてみてください。
→パテラなどの膝疾患と、将来的な関節の変化について詳しく知りたい方はこちら
ご自宅でできること
日常生活の中では、膝への負担をできるだけ減らしてあげることも大切です。
- 滑りにくい床にする
- 適正体重を維持する
- ソファやベッドなど高い場所からの飛び降りをできるだけ避ける
- 急な方向転換など、膝に負担のかかる動きをできるだけ減らす
- 普段の歩き方や走り方を観察する
すべてを完璧に行う必要はありません。
愛犬の生活の中で無理なくできることから、少しずつ環境を整えてあげましょう。
また、実際に愛犬の生活環境や運動量を踏まえて、どの程度の運動をさせてよいのか迷う場合には、診察の際にご相談ください。
このような変化があれば、一度ご相談ください
- スキップするような歩き方をする
- 後ろ足を上げることが増えた
- 以前と歩き方が変わってきた
- 走った後やジャンプした後に足をかばう
- 階段や段差を嫌がるようになった
- 散歩に行きたがらなくなった
- 急に足を痛がるようになった
- 後ろ足を気にして舐めることが増えた
特に、「以前はなかった歩き方の変化」や「足を上げる回数の増加」などは、膝の状態が変化しているサインの可能性があります。
気になる変化があれば、次回の健診を待たずにご相談ください。
「この歩き方気になる、病院に行っていいのかな?」と迷ったときに、
後ろ足の歩き方の変化について詳しく知りたい方はこちら
愛犬の膝を知ることから、一緒に考えていきます
健診でパテラが見つかったとき、
「手術しなければいけないのかな」
と不安になる必要はありません。
一方で、
「症状がないから大丈夫」
と決めつけてしまう必要もありません。
大切なのは、今の膝がどのような状態なのかを知り、これから考えられる選択肢を整理しておくことです。
当院では、膝蓋骨脱臼を含むさまざまな膝疾患について、診察・検査から治療、その後のケアまで対応しています。
また、治療方法を一つに決めつけるのではなく、対話を大切にしながら、その子に合った治療を一緒に考えることを大切にしています。
「手術が必要なのか知りたい」
「今は様子を見ていていいのか相談したい」
「他の病院で言われたことをもう一度詳しく聞きたい」
些細なことでも構いません。
愛犬の膝について少しでも気になることがあれば、まずはお気軽にご相談ください。
獣医師:今井
