看護師セミナー22 生殖・繁殖

2020年9月11日

こんにちは。看護師の坂本です。既に現役は退きましたが、これまで勉強してきた
内容の更新が後少しで完了するため、このままもうしばらくお付き合いください。

今回は生殖・繁殖学まとめております。
生殖器の疾患は、避妊去勢手術をしている子が多いので、あまり多く出会わない疾患ですが、多くないからこそ生殖器についての知識、疾患の症状を詳しく理解して、いつでも看護できるようにしておかなければと思い、今回勉強しまとめました。

以下内容
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生殖・繁殖
生殖器系は、卵子や精子といった生殖子やホルモンを産生する生殖腺、副生殖腺、生殖管など生殖に関連した体表の構造や、外性器からなる。

雄の生殖器

精巣
犬で生後30日、猫で生後20日で腹腔内から鼠径輪を通り陰嚢に収まる。精子形成には体温よりも4~6度低い温度を要し、陰嚢の温度調整のために壁の厚さや位置を変えるなど伸縮性がある。精巣は総鞘膜と言う硬く強い膜に包まれている。精巣の中には精子がつくられる精細管という管が張りめぐり、精祖細胞や精母細胞など精子のもとになる細胞と、セルトリ細胞という細胞に栄養を与える細胞などが混在している。精細管同士を埋める結合組織にライディッヒ細胞があり、アンドロジェンを分泌している。

精巣上体
精巣の長軸にそってある細長い臓器で、精子が流れる。頭部、体部、尾部に分けられ、精子は精巣上体を通過する間に成熟し、尾部で貯蔵される。

精管
精子を尿道へ届ける管で、鼠径輪から腹腔内に入り、前立腺を通って尿道へ行く。

副生殖腺
副生殖腺は動物種によって異なり、犬は精管膨大部と前立腺、猫は前立腺と尿道球腺をもっている。特に犬の前立腺は良く発達しており、腫大すると排便困難をおこす。前立腺は膀胱の尾側にあり、尿道球腺は骨盤内にある尿道の尾側にある

陰茎
尿道を備える外性器であり、交尾器。陰茎根、陰茎体、陰茎亀頭からなる。陰茎亀頭は包皮に包まれている部分で、犬の陰茎亀頭は根元の膨らんだ部分である亀頭球と先端の伸びた部分である亀頭長部にわかれる。亀頭球は尿道海綿体という血管の一部があり血液を貯留し膨らむ事が出来る。犬の陰茎の中央には尿道に被さるように陰茎骨が存在する。猫の陰茎は短く、頭側を向く犬の陰茎とは異なり、尾側を向いている。猫の陰茎骨は非常に小さく、レントゲン画像でも存在確認が困難な事がある。

雌の生殖器

卵巣
卵巣は腹腔内に左右一対あり、腹膜や脂肪などの結合組織に包まれている。エストロゲンというホルモンを分泌する。卵巣は頭側に伸びる卵巣提索によって腹壁に固定されている。卵子の発育の場となる卵胞や、卵胞が変化した黄体と呼ばれる組織がある。卵胞はその発達の度合いによって徐々に大きくなり、液体を貯留するようになる。黄体ではプロジェステロンとエストロゲンというホルモンを分泌する。

卵管
卵巣を構成する膜のなかを走る細い管で、卵子を子宮に運ぶ。卵巣に直接つながっていなく、卵巣の表面から排卵される卵子を受け止めるように、卵管の先端が漏斗状に広がっている。ここを卵管漏斗部と言い、膨大部、峡部と続き子宮に連結している。

子宮
子宮は受精卵が着床し、胎盤を形成して分娩するまで胎子の発育の場。卵管側から、左右に一対存在する子宮角、両方が合流した子宮体、子宮体の尾側で子宮壁の筋が厚く発達している子宮頸からなる。子宮頸部の内腔は他の部位よりも細くなっており、子宮頸管という。


円筒状の器官で、陰茎を受け止める交尾器であり、産道でもある。骨盤腔に存在しており、直腸と尿道の間に位置する。膣前庭は膣と外陰部の間にある空間で、生殖器と泌尿器が合流する部位で、副生殖腺の前庭線が存在する。

外陰部
陰唇と陰核からなる。陰唇は体外に面している部分で、発情中の犬は腫れるが、猫では大きな変化はない。左右の陰唇が腹部正中で結合した部位の奥にあるくぼみを陰核窩とよび、この中に陰核がある。

乳腺
乳腺は特殊化した汗腺で、乳汁を分泌する。腹側にあり、複数の乳房を形成する。犬猫は、胸部、腹部、鼠径部に左右一対存在するが、動物種によって乳房の数が異なる。一般的には犬で5対、猫で4対である。エストロゲンの作用で増殖し、プロジェステロンの作用で発達する。乳汁分泌はプロラクチンとオキシトシンの作用による。

繁殖

性成熟
目安は小型犬で生後8~10ヶ月、大型犬で10~12ヶ月、猫で6~10ヶ月と言われて、シャム猫は他と比べると早いと言われるなど、品種や成長期の栄養状態、飼育環境の影響も受けるので、個体差がある。

発情期
雄は性成熟を迎えるといつでも繁殖可能な状態になるが、雌は発情期があり発情期以外では雄の許容も妊娠もしない。犬は繁殖期に一回だけ発情を示す単発情動物で、6~10ヶ月感覚で発情を繰り返すが、個体差がある。7歳を過ぎると発情周期が不規則になる傾向がある。
発情周期は4つに分けられる。
・発情前期
平均8日続き、外陰部の腫大、充血、発情出血が見られる。落ち着きがなくなったり、排尿回数が増え、雄を引き寄せるが交尾は許容しない。スメア検査では角化細胞より有核上皮が多く、赤血球もみられる。
・発情期
平均10日続き、開始から48~60時間後に排卵がおこる。雄を許容するようになる。外陰部が柔らかくなり、排卵後から収縮し始め、出血減少する。スメア検査では角化細胞が多くみられる。角化細胞が7~8割になった時点で交配指導を行う。
・発情休止期
妊娠の有無にかかわらす約2ヶ月間続く。黄体からプロゲステロンが分泌される。この期間に偽妊娠になり乳汁の分泌や巣作り行動をする事がある。
・無発情期
6~9ヵ月。この時期の長さにより周期が決まる。スメア検査では○で円形有核上皮が主。

猫は特定の時期に数回の発情を繰り返す多発情動物であり、決まった時期に繁殖する季節繁殖動物でもある。日照時間により時期が異なるが、日本の外猫は1~8月中旬が繁殖季節。しかし、完全室内飼いだと日照時間が長くなり、年中発情をおこす事がある。交尾すると排卵が誘発される交尾排卵動物で、排卵は交尾後24時間前後におこる。発情周期は不規則だが、3~4週の間隔で2~3回繰り返す。その後1~2ヶ月あいてから次の発情がおこる。発情が始まると、独特の声で鳴き、人にすり寄ったり、排尿回数が増える、背を低くし足踏みする、外陰部から少量の液体が出る等の発情徴候が見られる。

外来・入院で発情中の動物がいる場合は、他の動物を近づけないよう配慮する。性ホルモンの関与する疾患を防ぐため繁殖を望まない場合は、去勢避妊手術の必要性を伝える。

生殖器診察
問診
品種、年齢、不妊去勢手術の有無、交配出産歴、最終発情時期、現症状歴(急性慢性、進行度の確認を含む)、排便排尿の状態確認
視診・触診
陰嚢陰茎の状態、潜在精巣の有無、外陰部の状態、腹部の状態、乳腺の状態、全身症状
直腸検査・尿検査
超音波検査・血液検査・レントゲン検査・内視鏡検査
精液検査・膣スメア検査
病理検査・微生物検査
のいずれかまたは組み合わせて、正常なのか否かを判断する。

代表的な疾患

潜在精巣
両側または片側の精巣が陰嚢内に下降せずに、腹腔内や鼠径部にとどまってしまう状態。
停留精巣、陰睾とも呼ばれる。片側性に生じる割合が高く、猫よりもトイ犬種での発生率が高い。遺伝性の疾患であることが明らかになっている。精子形成は体温より4~6℃低い温度条件が必要なため、腹腔内や鼠径部にある精巣では性ホルモン分泌は行われるが、精子形成は行われない。潜在精巣は下降精巣に比べて未発達のままだが、高齢になると下降精巣に比較し精巣腫瘍を10倍以上発症しやすい。仔犬、仔猫が来院したら8週齢までに陰嚢内に精巣が下りてきているか確認し、潜在精巣の場合早期の摘出手術が必要であることを家族に告げ、今後の対応について話し合う必要がある。
精巣腫瘍を疑う場合、精管がマージンとなるため精管の長さを十分に取る。
精巣腫瘍には、精上皮腫(セミノーマ)、間質細胞腫(ライディッヒ細胞腫)、セルトリ細胞腫がある。セルトリ細胞腫では、陰茎委縮、脱毛、悪性貧血などをおこす場合がある。再生不良性貧血を発症する場合があり、重篤化で死に至る疾患のため注意が必要。

前立腺肥大
前立腺が主題した状態。良性前立腺過形成、前立腺膿瘍、前立腺の扁平上皮化生、細菌性前立腺炎、細菌性前立腺腫瘍、前立腺周囲膿疱、前立腺腫瘍があるが、犬では良性前立腺過形成が最も多く、加齢性。前立腺が肥大すると、排尿障害、排便困難、後肢跛行、疼痛などの症状が出ることがある。良性の肥大であれば去勢を行いホルモン分泌が無くなると、12週までに縮小し、症状も良化する。前立腺腫瘍は悪性腫瘍で予後は悪い。

子宮蓄膿症
子宮内膜の膿疱性増殖を伴った子宮に、二次的に細菌感染がおきて子宮内に膿液が貯留する疾患で、犬では中高齢以上でみられることが一般的。全身感染症。加齢の未経産の雌で発症リスクが上昇する。猫は交尾排卵動物のため、黄体期になる機会が少ないため発症も少ないが、発症は若齢期に起こるものが多い。発情出血開始1~2ヶ月後の黄体移行期での発症する。
外陰部から分泌物が排泄されるか否かにより、開放性か閉鎖性に分類される。多飲多尿、食欲不振、抑うつ、嗜眠、嘔吐、腹部膨満が主な症状で、敗血症が生じ細菌毒素により多臓器不全(DIC等)に発展した場合は死に至る。一般的に閉鎖性の方が疾患の発見が遅れがちで重篤化してしまう。治療は基本的には卵巣子宮全摘出術で外科摘出を行う。術前には、抗菌薬治療、腎機能の改善、体液補正・電解質補正のための静脈内輸液を行う。外科治療が困難な場合や、内科治療を希望された場合、開放性であれば、プロスタグランジン製剤やアグレプリストン製剤を投与し、子宮内容物の排液を試みるが、閉鎖性では子宮破裂の可能性があるため、勧められない。内科的に治癒されても、次回発情の黄体期に高確率で再発症するので、注意し、伝えておく必要がある。
エコー検査で子宮水腫、子宮蓄膿症の区別をする。
閉鎖性の場合は、子宮が破れやすくなっており、破裂する危険性が高いため、抱き上げたり、保定する際には腹部の圧迫に十分注意する。陰部からの排泄があまりに多い場合は、おむつ等をして管理する。その際には頻繁に交換を行う。全身と陰部を常に清潔に保持する事が治癒を促進し、二次感染の予防にもなる。
外科摘出後は、抗菌剤の耐性の有無を調べるため培養の検査や腫瘍化していないか病理検査を行う。卵巣腫瘍もあるので、摘出後は卵巣を傷つけていないか確認する。

偽妊娠
妊娠していないにも関わらず、著しい乳腺の腫大や乳汁分泌、営巣行動などがみられる状態で、約2ヶ月維持される。腹部膨満、食欲不振、神経質や攻撃性の増大、おもちゃをかわいがるなどの症状がみられることもあるが、その個体により程度は様々。乳汁の吸引刺激などでプロラクチン分泌が持続してしまうため、偽妊娠の間は乳腺部や腹部周りの接触は最低限にする。
偽妊娠は生理的な現象であるため、特別な治療は行わない事が多いが、症状の強い動物にはホルモン分泌を抑える薬物を使用したり、卵巣子宮摘出術を勧める。
必ずしも偽妊娠をするわけではなく、むしろ偽妊娠をしない個体も多い。

乳腺腫瘍
乳腺に出来る腫瘤。良性腫瘤と悪性腫瘤(乳腺癌)があり、犬では50%、猫では8~90%が悪性。発症年齢平均は10歳以上で、若齢で卵巣子宮摘出を行った動物での発生が少ない。初回発情が起こる前に卵巣を摘出することで、発生頻度を低下させる事が出来るため、繁殖を望まない場合は勧める方が良い。治療は転移がみられない場合は、外科的な腫瘍の摘出を行う。悪性腫瘍の場合は、乳腺の全摘出をした方がその後の再発をある程度防止できると考えられている。ただし、炎症性乳がんの場合摘出しても、しなくても予後不良の場合があるので注意が必要。
保定を行う際は、乳腺部に痛みを生じている場合があるため、圧迫しないように注意する。
乳腺腫瘍の片側全切除では動物の疼痛看護だけではなく、創傷部が大きく切除後の傷が大きく残る。なぜ手術を行うか、傷が大きくなるかを十分に説明し、飼い主が理解したうえで手術に挑めるように、ショックを受け止められるように事前の準備が必要。
肺転移している場合もあるので、術前の検査ではレントゲン画像の評価も行う。細胞診では、良性所見でも、病理検査で悪性のこともあるので、針生検で良悪は判断できない。
抗がん剤はあまり効果が認められないことが多い。

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いかがでしたでしょうか。

生殖・繁殖学に関しては、なかなか勉強する機会がなかったので、今回生殖器についてしっかり学びなおすことが出来ました。
今後もみんなで生殖器疾患についてもっと理解を深めていきたいと思います。

看護師 坂本恵

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