当院ではセカンドオピニオンを受ける事が多くあります。セカンドオピニオンとは、患者さんの希望やホームドクターからの提案によって、担当医とは別の獣医師に、現在の状況や、これからの治療選択などについて意見をもらう事を意味していますが、その目的かつ最大の利点は、『客観的立場』の別の医師から、別の意見や方針を聞けることで、現在の治療選択の幅を広げられることにあります。
セカンドオピニンは、ファーストオピニオンの延長線上にあって初めて、相乗効果を生みます。そのため、ホームドクター(ファーストオピニオン)での検査結果や、治療とその反応などの詳細を慎重に評価して、場合によってはホームドクターの先生との協議の上で、治療を受けているコ達の現状が良い方向に向かうためのセカンドオピニオンを出して行く事が基本となります。目的は純粋に、『動物とその飼い主』のより良いであり、その達成のために必要な事を果たす責務が、一般の動物病院であっても医療機関としてあると思います。
犬と飼育頭数が減少傾向の昨今の影響なのか、最近になって受けるセカンドオピニオンでの飼い主さんのお話の中で、獣医療がまだまだ発展しないとなと痛感されるケースが増えており、『よくあるケース』として、そのいくつかを以下に挙げてみます。
- 初めの病院ではオペしなくていいと言われてたが、次の病院ではすぐにオペしないと治らなくなると言われ困っている。
- 上とは逆で、ホームドクターではオペをしないと命に関わると言われたが、他の病院ではオペは必要ないと言われて困っている。
- ホームドクターが休診のため近所の別の動物病院に行ったが、それまでの治療が間違っていると言われ、うちじゃないと治らないと言われてしまい、何が正しいのかわからなくなってしまって困っている。
セカンドオピニオンで当院にご来院される飼い主の方々のお話を伺う限りは、上記のようなケースでは、ホームドクターでの検査や治療歴が正しく聴取されている事はまずなく、治療反応だけをみてファーストオピニオンが否定されてしまっている事が残念ながらほとんどです。本来、セカンドオピニオンは、ファーストオピニオンの延長線上に、動物にとってより良い方針(セカンドオピニオン)を乗せる事を目的のはずが、あたかもホームドクターの治療の否定が目的で、『動物以外の何か』のより良いのためのセカンドオピニオンとなってしまっているような気がしてしまいます。こうしたセカンドオピニオンが横行してしまった場合に重大な問題点がいくつかあります。
ホームドクターとの信頼関係の崩壊、獣医療の信頼の崩壊、不必要な治療の横行です。
◯ホームドクターとの信頼関係の崩壊
人の治療にいても、動物の治療においても、治療がうまく行かないケースは少なからずあります。特に動物の場合、具合の悪い箇所を直接本人から聞けない分、初期治療は手探りです。原則、どの獣医師も、動物や飼い主さんのために一生懸命治療に従事していますが、この難しい初期治療の段階(ファーストオピニオン)に対して、詳しい治療経過情報もなく、上記のような『よくあるケース』に出てくるセカンドオピニオンが行われてしまうと、ほとんどの場合で、一生懸命に対応してくれる近所のホームドクターを失うことになってしまいます。何かあった時にすぐに行ける馴染の動物病院は動物達にとってとても肝心な場所のはずです。
◯獣医療との信頼関係の崩壊
『動物とその飼い主』のより良いが十分に吟味されてないセカンドオピニオンが増えてきてしまうと、治療の相乗効果が起こりづらくなってしまいます。相乗効果を狙わないセカンドオピニオンは単なるバラバラの獣医師の個人的見解であり、病態によっては見解が大きく分かれたり、さらには治療内容の否定合戦のような未発達なセカンドオピニオンも散見されます。こうなってしまうと、飼い主さんの立場からすると、獣医療そのものに対しての信頼が置けなくなってしまいます。『動物病院難民』という言葉もよく耳にする昨今ですが、大切な愛犬愛猫に治療を受けさせることそのものが飼い主のストレスになってしまうことはとても不幸な事だと思います。
◯不必要な治療の横行
セカンドオピニオンは、現症状に対して不安だから求めることがほどんとです。不安な気持ちになっている時に人は、確証バイアスという現象が働きやすい心理状態になっています。確証バイアスとは、本来、不安だからこそ他の意見を求めているはずなのに、自身の不安な気持ちを正当化する他人の意見にだけ耳が傾いてしてしまう現象です。例えば術後の一般的な具合の悪さの範疇にある症状が心配になり、ホームドクターの休診日に他の動物病院を受診した際に、手術に問題がある可能性が、などと指摘されてしまうと、ほとんどの場合でホームドクターに戻る事はできません。術後時間経過で落ち着くはずの症状であったのにかかわらず、手術に問題があるから再手術という流れになってしまっても確証バイアスによって、その流れが正しいか否かを正しく判断する事が難しくなってしまう事があります。セカンドオピニオンを出す獣医師の無意識的か意識的かも重要ですが、この心理バイアスをよく理解して診療に当たらないと、簡単に『動物以外の何か』のより良いのためのセカンドオピニオンができあがってしまいます。
当院で推奨しているセカンドオピニオン
- セカンドオピニオンの必要性をホームドクターと協議し、それまでの検査結果や治療反応などをまとめてもらう。
- それまでの治療経過の詳細な情報をもとに、他の医療施設での再検査を依頼し、治療方針を出してもらう。
- 上記をもとにホームドクターと治療方針を練り直す。
もちろんセカンドオピニオンを取るに至るには、ホームドクターに通えなくなってしまう色々な事情があって来られる方もおり、その場合は転院のお手伝いをさせていただく事もあります。
セカンドオピニオンで困った事になった場合には一度お気軽にご相談ください。
動物のためにも、飼い主さんのためにも、獣医療の正しい発展のためにも、正しいセカンドオピニオンには原則が大切だと思います。セカンドオピニオンは獣医師の名声を高めるものでも、自院の患者さんを増やすための手段でもなく、ホームドクターとの関係を壊すものでもありません。
純粋に治療が順調にいかずに困っている飼い主さんや動物のためのものです。
多くの病院同様に、当院でも獣医療従事者の責務としての正しさを厳守してセカンドオピニオンを行っておりますが、残念ながそうとは思えないセカンドオピニオンを飼い主さんを通して見聞きする事も少なからずあります。意見があまりにも違うセカンドオピニオンに対しては、一度ホームドクターでの再相談や、非営利性の高い大学病院等でのサードオピニオンの検討をお薦め致します。
本来のセカンドオピニオンは、愛犬愛猫のための治療方針の選択の幅を広げるものです。セカンドオピニオンで何かお困りの事があった場合にはお気軽にご相談ください。