コラム診察室

新型コロナウイルス感染症

国内における小動物臨床検査の主軸を担うIDEXXラボラトリーズより、新型コロナウイルスに関する2020年3月現在での公開情報をお知らせします。これまで、そして現在わかっていることで解釈すれば、犬猫で感染性を示すコロナウイルスはアルファコロナウイルス属で、人で今問題となっているコロナウイルスはベータコロナウイルス属であり違うタイプのコロナウイルスです。さらに、コロナウイルスは種特異性が高く、基本的には人→動物や、動物→人といった感染は起こり得ないということになります。一方で、香港で報告された人から犬への感染は、犬に症状を認めなかったもののベータコロナウイルス属が検出されたという点からは、今後の展開を注視すべき事案であると思われます。

犬猫における新型コロナウイルスについて

新型コロナウイルスと動物との関係については、国立感染症研究所や厚生労働省のウェブサイトでもアップデートされるためご確認ください。

当院ではコロナ対策の一環として、常時窓を開放しております。まだ寒い時期ではありますので暖かい格好でいらしていただければと思います。

 

皮膚科コンサルティングサービス

2020年度より皮膚科コンサルティングサービスを開始します。本サービスでは、当院から全国で活躍する皮膚科を専門とする獣医師に繋ぐことで、より迅速で、より良い治療選択が安定的に得られる事が期待できます。

従来の検査、治療方法
○考えられる可能性の高い疾患から一つづづ検査、治療を行う方法
○考えらえる可能性のある疾患全てを一度に検査を行い治療を行う方法
○先に病理検査を行い、病理組織学的初見に基づき治療を行う方法

皮膚科の特徴として、肉眼的に類似した疾患が多く、類似した疾患の鑑別には、たくさんの検査や、治療に対する反応をみる経過観察が必要です。経過観察も1〜2ヶ月程度と長期間の観察期間が必要となることが多く、また有効な治療法であっても治療成果が現れるのに時間がかかることもしばしばで、皮膚疾患はとにかく時間がかかるという印象を持たれるか方が多いという特徴があります。

皮膚科コンサルティングサービスの活用方法
○時間的理由で通院回数に制限があり、かつ皮膚病理検査までは決断できない時
○既に診断後の治療に入っているがなかなか皮膚症状が落ち着かない時
○慢性経過でどこからアプローチしてよいかわからない時

上記の様な場合で、本サービスは最適です。

実際の流れ
①皮膚に関する問診と写真撮影を当院で行います。
②問診結果と皮膚写真を当院から、皮膚科コンサルティングサービスに参加する皮膚科を専門とする獣医師に送ります。
③問診と皮膚写真を元に、膨大な過去データから可能性の高い疾患を皮膚科獣医師が選び、推奨される治療に関する得る。

 

 

2020年1月麻酔外科学会所感

学会では、人医療の先生に講演を依頼させていただき人医療の先端技術を垣間見る機会があります。数年前までは特別公演という形で時々、近年ではどの学会でもほぼ毎回、こうしした公演を聴講することができるようになりました。今回の学会では、京都大学iPS細胞研究所の妻木範行先生、京都大学の黒田隆先生、ユタ大学細胞シート再生医療センター長の岡野光夫先生の公演を聞くことができました。難治性の大腿骨頭壊死症に対しては、人医の世界においても外科的に切除してしまうことが世界的な標準治療の中、日本で、iPS細胞やrhFGF−2という成長因子を用いた再生治療で新たな標準治療を目指している活動には感銘を受けました。また、細胞シート再生医療とうい分野では、人工的に細胞から組織・臓器を再構築し、それを用いて治療する再生医療の臨床研究が、角膜、心筋、食道、歯根膜、軟骨、中耳にまで波及し、病気の根本治療に向けた次世代型医療が着々と進んでいる事も感じることができました。再生医療は、その費用の問題で動物の臨床現場で使用できるまでには相当の時間がかかると思われますが、普及が進めば、これまで治せなかった病気が治せるという時代もそんなに先ではないと感じた学会でした。

犬アトピーに対する初のモノクローナル抗体治療薬

特定の抗原(病原体や腫瘍細胞など)に対して、体を守るために産生される蛋白質を抗体と呼びます。抗原には無数の種類があり、その種類に応じた数多くの抗体が存在します。抗体の中から、治療に必要な部分を遺伝子的操作によって調整し作成したものがモノクローナル抗体薬です。近年になって臨床応用されている人体薬の多くがモノクローナル抗体薬を含む抗体医薬という新しい治療カテゴリーに属するもので、効果と安全性という点で大変注目されています。

獣医学においては、過去にリンパ腫に対する抗体医薬品の市販化もありましたが、2019年11月にファイザー社より発売となる新薬サイトポイント(ロキベトマブ)は、犬の皮膚科における初のモノクローナル抗体薬で、『痒み』にかかわる複雑なメカニズムのうち、痒みという感覚発生の引き金となるインターロイキン–31(IL–31)という伝達物質を選択的に抑制できるようになった初めての薬剤となります。この選択的抑制に大きな治療メリットがあります。

インターロイキン–31の選択的抑制のメリットとは?
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ファイザー社 特別セミナーより引用

模式図は細胞表面の受容体(伝達物質を受け取る装置)とさまざまな伝達物質を示しています。IL–31は痒みを伝える伝達物質です。各治療薬がどのように『痒み』に有効かを比較することで選択的抑制のメリットがよくわかります。

ロキベトマブ(サイトポイント)
痒みに関わる複雑な免疫反応のうち、痒みを引き起こす伝達物質(IL–31)のみを選択的に抑制する唯一の治療薬です(上図)。それ以外の免疫反応を抑制しないため現段階では明確な副作用の報告がありません。毎月一回の注射のため、毎日の投薬が不要で副作用の少ないという利点もあります。有効性はおよそ70%とされ、0.0001%~0.001%で薬剤に対するアナフィラキシ–反応の発生が知られています。

オクラシチニブマレイン酸塩(アポキル)
ロキベトマブに次ぐ高い選択抑制(安全性)を有する治療薬です。異なる点は、薬剤の作用点がIL–31ではなく、それを受け取る受容体(JAK受容体)であるというところです。従って、JAK受容体を介するその他の有用な免疫反応を抑制してしまうという欠点を有しています。現在のとこと従来の治療薬(ステロイド等)と比較して副作用は非常に軽微といえますが、皮膚感染症(ニキビダニ)の発生や白血球減少症の報告が散発的になされています。また、担癌動物においては原則禁忌となります。

免疫抑制剤(ステロイド、シクロスポリン(アトピカ))
免疫に関わる一連の反応を広く抑制(非選択的)する事で、痒みに関わる免疫反応も含めて種々の免疫反応を抑制します。痒みのみならず皮膚の炎症反応に対しても安定的な効果が得られる一方で、有用な免疫反応までを抑制してしまうことで副作用も問題となる治療薬です。治療開始期の症状が重い時には積極的に使用することが推奨されますが、長期投与には不向きといえます。

減感作容量薬(アレルミューンなど)
痒みに関与する抗体の反応を調整し、痒み物質産生の産生抑制や、痒みの引き金となる伝達物質の放出を抑制。理論的には非常に有効な治療法と考えられますが、原因物質が単独で、かつ長期的な視点で治療を行えた場合で効果が実感できると言うのが個人的な見解です。

まとめ
『痒み』の発生には様々な免疫反応が関わっています。従来の治療薬では、『痒み』という免疫反応だけを抑えることができずに、『痒み』もろとも他の有用な免疫反応をも抑えてしまうため種々の副作用が問題となっていました。しかしながら2019年11月に発売されるロキベトマブ(サイトポイント)は、痒みの伝達物質であるインターロイキン–31のみを選択的に抑制することができる初の治療薬となり、副作用が少なく、その効果と安全性が注目されています。さらに、他の治療薬のように体内で代謝を受けたり、細胞内に取り込まれることがないため、理論上、臓器毒性を示さない極めて安全な治療薬とも考えられています。

ロキベトマブ(サイトポイント)の課題
治療薬そのものに対する抗体が体内で生成される可能性が3%程度で報告されており、抗体産生が生じると、治療効果の減弱に留まらず重度のアレルギー反応(アナフィラキシー)が引き起こされてしまうリスクがあります。ただ、そのリスクは非常に希とされています(0.0001%ー0.001%)

また、インターロイキン–31は、細胞の増殖においても重要な役割を果たしていますが、治療薬による長期的な抑制が与える影響についてはまだ十分に解明されていないといえます。

 

 

 

2019年2月内科学アカデミー所感

今回の学会でもさまざまな内科疾患におけるアップデートをすることができました。学会内容の一部は年間を通して市内の各セミナーにて学ぶこともできるのですが、セミナーの始まる時間までに院内の仕事が終わらなかったり、入院の子がいると出られないので、大量の情報が一度に手に入る学会の存在は本当にありがたいです。

今回とりわけ有用と感じたのは、RECOVER Initiative Japanの進めるプログラムでした。エビデンスに基づく統一された心肺蘇生ガイドラインを日本の獣医療に定着させることを目標とし、従来よりもよりチーム力を要求し、より高い蘇生率を目指す心肺蘇生の実習型講演をしておりとても参考となりました。獣医師が中心となり心臓マッサージを行いながら様々な判断、支持を行うこれまでの概念と全く異なる展開で、獣医師と看護師がタッグを協力に組む完全なる組織戦でした。

帰札後、早速当院の心肺蘇生方法の見直しです。

看護師と一緒に院内マニュアルを新たに立ち上げ、動物が人形であること以外は全て本番同様の模擬蘇生を実施し、改良点をあげ、また模擬蘇生を行いまた改良しを現在繰り返しています。もう少しで院内マニュアルは完成ですが、今後も月2回の模擬蘇生の練習を続け組織力を高めていく方針です。

CPA(心肺停止)です!』と看護師の大きな声から始まる本番さながらの模擬蘇生を見ているとまだまだ病院として成長できそうです!