猫の寿命を30歳に〜腎臓病治療の「AIM」とは?
こんにちは。看護師の佐々木です。
猫ちゃんの新しい腎臓病治療として「AIM」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。この治療によって猫ちゃんが30歳まで生きられるようになる日も夢ではないと期待されています。今回は「AIM」について腎臓病とは何かも含めご紹介させていただきたいと思います。少し長くなってしまいますが最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
〇腎臓病とは?
腎臓が何らかのきっかけで上手く機能がしなくなる状態のことを腎臓病と呼びます。腎臓は体の中で、
- 体内の老廃物や毒素を尿中に排泄する
- 血圧を調整する
- 血液中のイオンバランスを保つ
- ホルモンを分泌して赤血球を造る
などの働きを担っている重要な臓器です。
腎臓病はさらに「急性腎臓病」と「慢性腎臓病」に分類されます。
急性腎臓病は感染症や中毒によって発症し、急速に悪化することがあるため直ちに治療が必要となります。一方、慢性腎臓病は長い年月をかけて腎臓の機能がゆっくりと低下していく病態を指します。
急性腎臓病は早期発見できれば回復することもありますが、慢性腎臓病を完治することはできないので病気と長く付き合っていく必要があるのです。
急性腎臓病
脱水や循環器系の異常などにより腎臓へ流れる血液量の低下、感染症や農薬・ユリ中毒などにより腎臓が障害を受けた時に起こります。加えて、尿道閉塞や尿管結石などで排尿が上手にできない時にも発症しがちです。症状としては元気がなくなり、尿の量が極端に減ることもあります。
その中でも特に気を付けたいのはユリ中毒です。猫ちゃんはユリ自体をかじるほか、花粉を口に含んだり花瓶の水を飲んだりしただけでも急性腎臓病になる可能性があります。そのため自宅ではユリは飾るのは控えた方が良いでしょう。人間の薬を飲んで発症することもありますので、お薬の管理にも気をつけていただければと思います。
慢性腎臓病
長い間に腎臓の機能が徐々に低下していく病気で、腎臓の構造の異常や機能低下が3ヶ月以上持続する場合、慢性腎臓病と診断されます。
加齢などにより腎臓が少しずつダメージを受けて慢性腎臓病になる場合もありますし、急性腎臓病から回復したもののダメージが残り、その後に慢性腎臓病になってしまう場合もあります。どちらの場合も診断時にはすでに原因は不明であることが多くなります。
主な症状として次のものが見られます。
浄化機能の低下から尿毒症
腎臓の浄化機能が低下すると、老廃物や毒素を体外に排出できず体にたまってしまうことで、嘔吐や食欲がなくなるなどの尿毒症の症状がみられます。
水分・ミネラル調整機能の低下から脱水
水分やミネラルを調整できなくなることで、必要な水分が尿として大量に流れ出てしまい、脱水症状を起こしてしまいます。皮膚の弾力がなくなり、元気や食欲がなくなるなどの症状がみられます。
ホルモン調整機能の低下から貧血や高血圧
腎層が分泌するさまざまなホルモンには、血圧を調整するものや、赤血球を産生するように働きかけるものなどがあります。この腎臓のホルモン調整機能が低下すると赤血球が不足して貧血になったり、高血圧になったりします。貧血や高血圧になると、動くのをいやがったり食欲がなくなるなどの症状がみられます。
猫ちゃんの腎臓病を早期に発見するためには日常的に猫ちゃんの体調を把握しておくことが大事になってきます。いつもと何か違うな、前より遊ばなくなってきたかも、など少しでも気になることがあればお気軽にご相談ください。また、定期的な検査をすることで早期発見に繋がることもありますので、腎臓だけでなく身体の全体的な状態を知っておくためにも、健康な子でも年に1度は血液検査をすることをおすすめします。
次の項目に当てはまる症状がある場合、腎臓病の可能性があるので受診をご検討いただけたらと思います。
もしかしたら腎臓病かも?チェックリスト
- 水をたくさん飲む
- 色の薄い尿をたくさんする
- 体重の減少
- 食欲の低下
- 活動的ではなくなる、元気がない
- 消化器症状が増えた(嘔吐、下痢など)
- 毛艶が悪くなる
- 口臭がある
猫ちゃんの慢性腎臓病は年齢に関係なく発症するものではありますが、加齢による腎機能低下で7歳前後から増加し始め、10歳を過ぎると発生率が上昇します。特に15歳以上の猫ちゃんのうち、約8割以上が慢性腎臓病を患っているというデータもあり、猫ちゃんの死因の上位にランクインしています。
腎臓は一度機能が低下してしまうと元の状態に戻らないということもあり病状の進行を抑えることが難しく、また、急性腎臓病に対しての確実な治療法の確立は果たされていなかったため、そこから慢性化してしまうこともあり長年多くの猫ちゃんと飼い主さんを苦しめてきました。
しかし2016年に元東京大学教授、AIM医学研究所代表の宮﨑徹先生により、先生自ら発見した「AIM」というタンパク質が猫の腎臓病に関与していることが明らかになったという論文が発表されました。さらにこの「AIM」が腎臓病治療に有効だと判明し、現在「AIM」を利用した新しい治療薬(AIM薬)の研究が進められています。
2024年6月から非臨床試験がすでに開始され、2025年5月からは実際の猫ちゃんを対象とした治験が始められています。2027年の春頃には医薬品として販売される見込みとなっているそうです。
では「AIM」とは何なのか。なぜ猫ちゃんの腎臓病に有効なのか。腎臓病が起こる仕組みと共にご説明させていただきます。
〇AIMとは?
「AIM」は血液中にあるタンパク質の一種です。「AIM」の役割は、老廃物のような体内に放置されると病気の原因になるようなものを排出させる際、老廃物を除去する働きのあるマクロファージに老廃物が「ここにあるよ」と知らせることです。
「AIM」は普段血液中のIgMという抗体に結合していますが、老廃物を見つけるとIgMから離れて老廃物にくっつくことで目印をつけます。その結果、目印を頼りにマクロファージがやってきて老廃物が除去されます。通常、ヒトやマウス、イヌなどはこの動きがスムーズに行われるのですが、ネコ科の動物は少し違います。
ネコ科の「AIM」はIgMとの結合が強すぎる(約1000倍の強さがある)ためうまく離れることができません。
体内(血液中)の老廃物をろ過し、体外に尿として排出するのは腎臓の役割です。腎臓に障害が起きた時(急性腎臓病)、炎症によって死亡した細胞(老廃物)が腎臓の「尿細管」と呼ばれる尿の通り道に溜まってしまいます。ネコ科以外の動物は「AIM」が働き、マクロファージによってこの詰まりが改善され症状が治まります。しかし、ネコ科の動物はこの機能が働かないため老廃物が溜まったままになってしまい、腎臓に負担がかかり、悪化することによって慢性腎不全に進行してしまいます。これが猫ちゃんに腎臓病が多い原因です。
「AIM」の治療は、「AIM」を直接血液中に注射します。投与された「AIM」は前述の仕組みによって尿中の老廃物にくっつき、それをマクロファージが食べることで尿細管の詰まりが改善され、腎機能が上向きます。慢性腎臓病の猫ちゃんは、年齢によって低下してしまった腎機能自体は投薬によって改善するわけでではないので、老廃物はまた溜まってしまいます。ですので定期的な注射が必要になります。また、予防効果としてまだ腎臓病を患っていない猫ちゃんにも投薬することで、老廃物が溜まるのを防ぐ効果も期待されています。
「AIM」は、腎臓に関するゴミだけではなく、体内のいろいろな臓器にたまるさまざまなゴミ全般の掃除に関わる働きをすることが判明しています。今は腎臓病治療薬の開発が進んでいますが、これが完成し承認されれば、猫ちゃんだけではなく、人間の脂肪肝・肝臓がん、関節リウマチ、尿路結石、多くの脳神経疾患の治療にも効果があると期待されています。
「AIM」の研究の過程で、L-システインというアミノ酸がIgMから「AIM」を剥がさせる機能を持つことが確認されました。このL-システインを配合したフードが宮崎徹先生と企業の共同開発により発売されています。マルカンからは「AIM30」、いなばからは「forAIM」という商品が出ています。マルカンからは年齢に合わせて選べるドライフードや様々な味のおやつ、サプリメントが発売されており、いなばからはお馴染みのちゅーるタイプのおやつや、ドライフードも出ています。どちらもホームセンター、ドラッグストア、またはインターネットなどでご購入できますので、気になる方は試してみるのもよいかもしれません。
しかし、注意しなければいけないことはこれらの商品はあくまで「AIM」の働きを活性化し、猫ちゃんの健康維持をサポートもするものであり、決して治療するものではないということです。なのでフードに関しては「療法食」ではなく「総合栄養食」となります。慢性腎臓病をすでに患っている猫ちゃんや、療法食を食べている猫ちゃんにはお勧めできません。まだ腎臓の損傷が少ない、または軽度な猫ちゃんには少量ではあってもコンスタントに「AIM」を活性化させることで、腎臓病の予防や病態の悪化を抑制する可能性があります。
当院でも動物病院専用の商品でちゅーるタイプのものを2種類取り扱っておりますので、ご興味のある方はお気軽にお声がけ下さい。
CIAO for AIM L-シスチンちゅ~るタイプ まぐろ 1本 ¥70(込)
・L-シスチン配合
・猫ちゃんの好きなフードと混ぜてお使いください
・乳酸菌配合でお腹の健康にも配慮

CIAO for AIM L-シスチンちゅ~る ワンタッチタイプ まぐろ 4個入り 1袋 ¥440(込)
・片方にL-シスチンちゅ~る、もう片方にまぐろ味のちゅ~る入り
・ワンタッチでお手軽にお使いいただけます
・乳酸菌配合でお腹の健康にも配慮

最後までご覧いただきありがとうございました。