犬・猫 CKDステージング 日本語まとめ
International Renal Interest Society(IRIS)
Chronic Kidney Disease Staging — Modified 2026(原文はコチラ)
対象: 犬・猫
用途: 獣医師・獣医学生向け臨床早見資料
基準: IRIS CKD Staging of CKD(Modified 2026)
1.CKDステージングの基本
慢性腎臓病(CKD)と診断された犬・猫では、適切な治療、モニタリング、予後評価のためにIRIS CKD Stageを決定する。
ステージングの基本
CKDの診断
↓
患者が安定・十分に水和されていることを確認
↓
血中クレアチニン(Cr)および/またはSDMAを評価
↓
IRIS Stage 1~4を決定
↓
UP/Cによる蛋白尿サブステージ
↓
収縮期血圧(SBP)による血圧サブステージ
重要
IRISステージングは、原則として安定したCKD患者に適用する。
脱水、急性腎障害(AKI)、腎前性・腎後性要因などによってCrやSDMAが短期間に大きく変動している場合は、まず原因を評価し、腎機能が安定してからステージングする。
IRISでは、CKDが疑われる患者について、Crおよび/またはSDMAを再評価して腎機能の安定性を確認することを推奨している。
2.IRIS CKD Stage 1~4
血中クレアチニン・SDMAによる分類
| Stage | 犬:Cr | 猫:Cr | 犬:SDMA | 猫:SDMA |
|---|---|---|---|---|
| 1 | <125 µmol/L<1.4 mg/dL | <140 µmol/L<1.6 mg/dL | <18 µg/dL | <18 µg/dL |
| 2 | 125–250 µmol/L1.4–2.8 mg/dL | 140–250 µmol/L1.6–2.8 mg/dL | 18–35 µg/dL | 18–25 µg/dL |
| 3 | 251–440 µmol/L2.9–5.0 mg/dL | 251–440 µmol/L2.9–5.0 mg/dL | 36–54 µg/dL | 26–38 µg/dL |
| 4 | >440 µmol/L>5.0 mg/dL | >440 µmol/L>5.0 mg/dL | >54 µg/dL | >38 µg/dL |
注意: クレアチニン値は筋肉量、犬種、体格などの影響を受けるため、数値だけでなく患者背景と経時的変化を考慮する。
Stage 1
正常~軽度の腎機能異常
血中Crが正常、または軽度上昇している一方で、腎疾患を示すその他の異常が存在する状態。
例:
- 腎性の尿濃縮能低下
- 腎臓の画像検査異常
- 持続的な腎性蛋白尿
- 腎生検異常
- 経時的なCr/SDMA上昇
SDMAについては、持続的な >14 µg/dL がCKDを支持する所見となり得る。
Stage 2
軽度腎性高窒素血症
- CrまたはSDMAが軽度上昇
- 臨床症状は軽度または認められないことが多い
- 犬では2026年版でStage 2のCr範囲が広く設定されている
Stage 3
中等度腎性高窒素血症
腎外性の臨床症状が認められることがある。
臨床症状の程度により、
Early Stage 3
→ 症状が少ない
Late Stage 3
→ 多数または明らかな全身症状が存在
と考えることができる。
Stage 4
高度腎機能低下
全身性の臨床症状や尿毒症性クリーゼのリスクが高い状態。
3.クレアチニンとSDMAが一致しない場合
SDMAはCrを補完する腎機能マーカーであり、筋肉量の影響を受けにくい。
Crだけでは低いStageに分類されても、SDMAが持続的に高値の場合には、より高いStageとして治療するケースがある。
犬
| Cr | SDMA | 治療上のStage |
|---|---|---|
| <1.4 mg/dL | >18 µg/dL | Stage 2 |
| 1.4–2.8 mg/dL | >35 µg/dL | Stage 3 |
| 2.9–5.0 mg/dL | >54 µg/dL | Stage 4 |
猫
| Cr | SDMA | 治療上のStage |
|---|---|---|
| <1.6 mg/dL | >18 µg/dL | Stage 2 |
| 1.6–2.8 mg/dL | >25 µg/dL | Stage 3 |
| 2.9–5.0 mg/dL | >38 µg/dL | Stage 4 |
★ステージングにおけつ 臨床上のポイント
CrだけでStageを決めない。
Cr、SDMA、筋肉量、年齢、犬種、併存疾患、尿検査などを総合して判断する。
IRISは、CrとSDMAでStageが一致しない場合、患者背景を考慮したうえで、判断に迷う場合にはより進行したStageを適用するという保守的な考え方を示している。
4.蛋白尿によるサブステージング
CKDでは、腎性蛋白尿の程度を**尿蛋白/クレアチニン比(UP/C)**で評価する。
評価前に除外するもの
- 腎後性蛋白尿
- 尿路炎症
- 尿路出血
- 腎前性蛋白尿
- その他の非腎性原因
可能であれば、蛋白尿の持続性を確認する。
UP/C分類
| 分類 | 犬 | 猫 |
|---|---|---|
| 非蛋白尿性 | <0.2 | <0.2 |
| 境界域蛋白尿 | 0.2–0.5 | 0.2–0.4 |
| 蛋白尿性 | >0.5 | >0.4 |
犬
UP/C <0.2
→ 非蛋白尿性
UP/C 0.2~0.5
→ 境界域蛋白尿
UP/C >0.5
→ 蛋白尿性
猫
UP/C <0.2
→ 非蛋白尿性
UP/C 0.2~0.4
→ 境界域蛋白尿
UP/C >0.4
→ 蛋白尿性
境界域蛋白尿
持続する境界域蛋白尿では、再評価して経時的変化を確認する。
治療を開始した場合には、治療後のUP/Cを再測定して治療反応を評価する。
5.血圧によるサブステージング
収縮期血圧(SBP)は、患者を測定環境に十分慣らしたうえで、複数回測定する。
可能であれば異なる診察日に測定する。
犬・猫の血圧分類
| SBP | 分類 | 標的臓器障害リスク |
|---|---|---|
| <140 mmHg | 正常血圧 | 最小 |
| 140–159 mmHg | 前高血圧 | 低 |
| 160–179 mmHg | 高血圧 | 中等度 |
| ≥180 mmHg | 重度高血圧 | 高い |
標的臓器障害
高血圧では、以下のような標的臓器障害の有無を評価する。
- 眼
- 腎臓
- 脳
- 心血管系
すでに標的臓器障害が認められる場合は、単純な血圧値だけではなく、臨床的緊急性を考慮する。
犬種による注意
特にサイトハウンドなど一部の犬種では、一般的な犬より血圧が高い傾向がある。
利用可能であれば、犬種別の基準範囲を考慮する。
6.治療後の再ステージング
CKDのStageやサブステージは固定されたものではない。
治療後には、
Cr・SDMA・UP/C・SBP
を再評価する。
★ ポイント
治療後の分類では、治療前の血圧やUP/Cをそのまま使用しない。
現在の測定値を反映して再分類し、必要に応じて**治療中(treating)**であることを付記する。
IRISも、治療後は現在の血圧やUP/Cを反映してStage・サブステージを更新することを推奨している。
7.CKDが疑られた場合の診断手順
STEP 1
CKDの診断を確認
- 病歴
- 身体検査
- 血液検査
- 尿検査
- 画像検査
- 必要に応じて腎生検
STEP 2
腎機能が安定しているか確認
- 脱水を除外
- 腎前性・腎後性要因を除外
- AKIを除外
- Cr/SDMAを再評価
STEP 3
Cr + SDMAの再検査
STEP 4
IRIS Stage 1~4
STEP 5
UP/C
蛋白尿サブステージ
STEP 6
収縮期血圧測定
血圧サブステージ
10.早見表
CKD Stage
| Stage 1 | Stage 2 | Stage 3 | Stage 4 | |
|---|---|---|---|---|
| 状態 | 腎異常あり・腎機能低下は軽微 | 軽度腎性高窒素血症 | 中等度腎性高窒素血症 | 高度腎機能低下 |
| 症状 | ほぼなし | 軽度/なし | 中等度~多様 | 尿毒症リスク高 |
| 対応 | 早期介入・監視 | 進行抑制 | 合併症管理 | 集中的管理 |
蛋白尿
| 犬 | 猫 | 分類 |
|---|---|---|
| <0.2 | <0.2 | 非蛋白尿性 |
| 0.2–0.5 | 0.2–0.4 | 境界域 |
| >0.5 | >0.4 | 蛋白尿性 |
血圧
| SBP | 分類 | リスク |
|---|---|---|
| <140 | 正常血圧 | 最小 |
| 140–159 | 前高血圧 | 低 |
| 160–179 | 高血圧 | 中等度 |
| ≥180 | 重度高血圧 | 高 |
12.注意事項
本資料は、IRIS 2026年版CKDステージング資料をもとにした日本語の臨床用まとめです。
IRISステージングはCKDの診断そのものではなく、CKDと診断された安定患者の病期分類に用いるものです。
実際の症例では、Cr・SDMAだけでなく、尿比重、尿沈渣、尿培養、UP/C、血圧、画像検査、身体検査、筋肉量、犬種、併存疾患などを総合的に評価してください。
また、IRISガイドラインは更新されるため、診療時には最新のIRIS公式資料を確認してください。IRIS公式サイトではガイドラインが継続的にレビュー・更新されています。
参考資料
International Renal Interest Society (IRIS)
IRIS Guidelines / IRIS Staging System
IRIS 2026 CKD STAGING
DOG & CAT QUICK REFERENCE
Creatinine / SDMA → Stage
UP/C → Proteinuria
SBP → Blood Pressure
STAGE + P + BP
