【看護師が解説】IRISによる慢性腎臓病(CKD)の治療に関するガイドラインが改定されました

国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)が発表しているわんちゃん、ねこちゃんの腎臓病についてのガイドラインをご存知の方もいらっしゃると思います。
腎臓病のステージ2、ステージ3などの進行度を決める基準が決められていたり、ステージごとの検査内容、推奨される治療方法などが記載されるようになってきています。

前回の記事(コチラ)では、改定された原文の翻訳をそのまま載せていますが、ちょっと内容が難しいですよね💦

この記事では、IRISガイドラインの変更点を中心に、看護師目線でまとめさせていただいています。

ご参考になればうれしいです。

看護師:佐々木

(猫好きなので、少しだけ猫に傾いた文章になってしまっています・・・)

IRISとは

国際獣医腎臓病研究グループ(International Renal Interest Society)略してIRISとは、イヌやネコの腎臓病に関する科学的理解を深めるために設立された学会で、腎臓病の診断と治療に関するガイドラインを確立することを主要な目的のひとつとしています。

数年毎にIRISによってガイドラインの更新がされているのですが、最新版は2026年に変更されました。
今回はその変更点を腎臓病の検査の数値も含めてご説明させていただけたらと思います。

始めに、以下から最新のIRISのガイドラインがご覧になれます。

IRISの腎臓病ガイドライン(簡易版)

検査項目の解説

まず初めに、腎臓の検査項目に関する簡単な解説をさせていただきます。

BUN(尿素窒素)

タンパク質が分解されてできる老廃物(尿素)に含まれる窒素分のこと。肝臓で作られる。腎機能低下で数値上昇。

Cre(クレアチニン)

筋肉の代謝でできる老廃物。腎臓でしか排出されない。腎機能低下で数値上昇。

IP(リン)

身体に必要なミネラル。腎臓から排出。腎機能低下で血中に溜まる。数値が上昇。

Ca(カルシウム)

リンと密接な関係。リンとセットで骨や歯の主成分となる。リンが増えるとカルシウムは下がる。カルシウムが下がると骨がもろくなり、骨や血管以外の場所で石灰化する。

SDMA

体内のタンパク質代謝で作られる。腎臓から排出。腎機能低下で上昇。クレアチニンは筋肉量の影響を受けるがSDMAは受けないため早期発見に繋がる。

UPC(尿タンパク/クレアチニン比)

尿検査の一種。尿中にどのくらいタンパク質が出ているのかを判断する。腎臓病が進行すると腎臓の糸球体がダメージを受けタンパク質が漏れ出てしまう。腎機能低下で上昇。

実際の臨床現場では、これらの数値を見てガイドラインに従った腎臓病の治療を進めていきます。腎臓病は症状がなくても進行していることがあるので、健康な若い子でも一年に一回は健康診断として血液検査を行うことをおすすめします。

最新版ガイドラインの変更点

それでは次にIRISが作成した慢性腎臓病の治療に関するガイドラインの2026年度版における変更点をご紹介します。変更点は下記の通りです。

検査とステージングの変更

犬の基準値調整

全体的な4ステージ分類は維持しつつ、犬のステージ2の範囲が拡大され、ステージ3が狭められて重なりが減少。猫の基準値は基本的に維持。

SDMAのコア化

補助的に用いられていたSDMAの測定がステージングの診断に不可欠になった。クレアチニンと値が異なる場合は、より進行した方のステージを採用。

クレアチニン単独の廃止

クレアチニン値だけではなく、SDMA、UPC、血圧を組み合わせて総合的に評価するようになった。

治療と管理のポイント

動的再ステージング

固定的なステージ判定にとどまらず、状況変化に応じた再評価が強く推奨されるようになった。

貧血・血圧・タンパク尿

貧血治療のヘマトクリット閾値や、HIF-PH阻害薬(モリデュスタットなど)の選択肢が明確化された。また、タンパク尿は単なる結果ではなく進行因子として厳格な管理が求められるようになった。

今回の改定での注目点をひとつあげるとしたら、犬猫共に「CKDに伴う貧血の治療をいつから考え始めるのか」という基準が明確になったことです。

そもそもなぜ腎臓が悪くなると貧血が起きるのかですが、以前「AIM」の記事でもご紹介させていただいていた腎臓の役割の中に「ホルモンを分泌して赤血球を造る」という項目があります。 

エリスロポエチン」というホルモンなのですが、健康な腎臓ではこのホルモンが正常に分泌され、骨髄に指令を出し赤血球を産生させます。しかし腎臓の機能が落ちてくるとホルモンが十分に作れなくなり、その結果赤血球が減り貧血が起きてしまいます。

※CKDの貧血はエリスロポエチン不足だけが原因ではないので判断には注意が必要です。

また、貧血の治療の選択肢として従来から使用されていた輸血、ダルベポエチン(エリスロポエチン持続型製剤)に加えて、HIF-PH阻害剤(モリデュスタット)の使用も明確に位置づけられました。

HIF-PH阻害剤(モリデュスタット)とは

簡単にご説明すると、ダルベポエチン、HIF-PH阻害剤ともにエリスロポエチンを増やす薬ですが、ダルベポエチンがエリスロポエチンそのものを外から補うのに対して、HIF-PH阻害剤は体がエリスロポエチンを造る仕組みに作用してエリスロポエチンを造らせる薬です。

貧血の状態、臨床症状、緊急性などをみて、使用する薬を選択していきます。

今回の改定では前回のステージングが根本から変わったわけではないので、今までとステージごとの治療方法や検査項目の基準範囲に変更はありません。
犬の「ステージ2が拡大され、ステージ3が縮小された」とありますが、実際の検査項目の基準値が変更された訳ではなく、「ステージの捉え方の解釈が変わった」というのが正しいです。

簡単にまとめると「同じステージ3のクレアチニンの基準範囲でも、以前ステージ3に入れていたわんちゃんの中に“実際にはステージ 2として扱ったほうが臨床的に分かりやすい子が多かった”のでステージ2に入れる範囲を広げた」という感じです。

例えば、クレアチニン2.9 mg/dL前後の子とクレアチニン4.5–5.0 mg/dLの子を同じステージ3とすると、臨床像が全然違うことがあります。

IRISは実際に、

  • ステージ3の下限付近の犬
  • クレアチニンが2.9 mg/dL前後
  • 臨床症状がほとんどない
  • ステージ2の子と似た管理で十分なことが多い

という場合がかなり存在することを問題視していました。そこで、以前ステージ3に入っていた“比較的軽症の犬”をステージ2側へ移すという考え方が採用されました。
気をつけなければならないことは、あくまでステージ自体は変わらないので注意して経過を見ていく必要があるということです。その子の臨床症状に合わせて適切な検査、治療をしていくことが大切です。

このように、今回の改定からも分かるように、CKDの状態を評価するときは「クレアチニンがいくつだからステージ○」と数字だけを見るのではなく、その子の体の中で実際に何が起きているのかを考えることが重要です。

ここまで2026年のわんちゃんのステージングについて見てきましたが、IRISのガイドラインでは、犬だけでなく猫についてもCKDをより正確に評価するための考え方が少しずつ整理されています。
特に前回の2023年の改定では、猫のCKDを考えるうえでFGF23という指標についても重要な変更が加えられました。

では、そもそもFGF23とは何なのでしょうか?

猫のCKDにおけるFGF23とは?

FGF23は主に骨(骨細胞)から分泌されるホルモンで、体内のリン濃度を調節しています。

FGF23の働き

  • 腎臓でのリン再吸収を減らす
  • 尿中へのリン排泄を増やす
  • 活性型ビタミンD産生を抑制する
  • 腸からのリン吸収を減らす

つまりFGF23は、「体内のリンが多すぎるので何とか排泄しろ」という警報を出すホルモンです。

何故血中のリンの値だけでは、慢性腎臓病の診断においては不十分なのか? ここが重要なポイントになります。

猫のCKD初期では、腎機能が低下しても血液検査のリン値は正常範囲に保たれることがあります。例えば、

状態血清リンFGF23
健康猫正常低値
CKD初期正常上昇
CKD進行上昇上昇

という経過をたどることがよくあります。

腎臓がリンを十分に排泄できなくなり始めると、体はFGF23を増やして無理やりリン排泄を維持します。
そのため、血清リンが正常でもFGF23が高い状態=リン負荷がすでにかかっている状態と考えられます。

FGF23は単なるマーカーではなく、FGF23そのものが病態に関与する可能性があります。

人医療では高FGF23は、

  • CKD進行
  • 心血管疾患
  • 死亡率上昇

との関連が示されています。

猫でも研究では、

  • FGF23高値猫は腎疾患進行が速い
  • *生存期間が短い傾向

が報告されています。

そのため、FGF23は「リンが多い」というサインであるだけでなく、予後マーカーとしても重要と考えられています。

慢性腎臓病と食事

腎臓病の治療と言えば処方食(食事療法)を思い浮かべる方も多いと思います。しかし腎臓病が進行しているからと言ってすぐに処方食に切り替えるのはおすすめできません。
リンは猫にとって必須ミネラルであるため、腎機能がまだ保たれている初期段階で過度に制限していまうと本来必要であるリンまで不足してしまう可能性があります。

また、腎臓病の処方食はリンの含有量を低く抑えているのに加え、タンパク質の制限も行っています。なぜタンパク質も制限されてしまうのかというと、リンが、主に肉や魚、内蔵、乳製品などタンパク質が多い食品に多く含まれているからです。

タンパク質が十分に取れていないと筋肉量、体力の低下を招くリスクがあります。

近年の処方食は各メーカーさんの努力により嗜好性が昔よりは上がってきていますが、腎臓の処方食は配合される成分の関係上どうしても味が薄く、匂いが弱くなってしまう傾向があります。

そのため、ねこちゃんが処方食を食べてくれないこともよくあります。

治療以前にご飯を食べないことによる栄養不足になってしまっては本末転倒です。

その場合、初期の段階ではご飯は変えずに、リン吸着剤などのお薬やサプリメントの併用でリン濃度をコントロールする方法もあるので是非ご相談ください。

リン制限のメリット・デメリット

メリット

  • 腎臓への負担を軽減させる
  • 病気の進行を遅らせる可能性
  • 生活の質(QOL)の維持

デメリット

  • 食べなくなるリスク
  • 筋肉量低下のリスク
  • 栄養不足のリスク

まとめ

FGF23の測定は、適切なタイミングでのリン制限療法の開始の判断に大いに役立ちます。ただし、FGF23はその数値だけを見て判断するのではなく、その他の数値も含め総合的に判断することが重要です。

最後に、FGF23の測定結果の利用方法のフローチャートを添付させていただきます。
リン代謝異常の判定と管理

今後、またガイドラインが変更になることがあると思います。

その時は改めてご説明させていただけたら思います。

おうちの子でなにか気になることがありましたらお気軽にご相談ください。

長文となりましたが最後までご覧いただきありがとうございました。

看護師:佐々木

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